リ サ イ タ ル

 

音声

[ 約2分 ]


 「独り放下」は、新作を奨励する「東音創作会」の第五回で発表した作品ぞす。作詞は、昨年九月に急逝されました海津勝一郎先生です。
 放下は、室町時代から江戸時代中期に流行した巷間芸能の一つで、僧形ぞ各地を遍歴Lながら、手品や曲芸を演じたリ、小歌を歌ったリして、糊口を凌いでいました。一五一八年に成立した室町時代の小歌集『閑吟集』にも「こきリこは放下にもまるる」歌われていますように、両手に長さ二、三十㎝のニ本の竹林の小切子を持って、それを手玉にとったリ打ち鳴らしたリして、さまざまな曲を演じました。その人たちを放下とも、放下僧とも呼んでいましたが、僧形でも烏帽子を被り、笹を背負うなどの異形の姿だったようです。能にも「放下僧」という作品があリ、放下僧に身をやつして、親の敵討ちをする話になっていますが、私の作品の粗筋は次の通りです。
 流浪の放下が、馴染みの村の境までやって来たのですが、その村は生気があリません。ふと高札を見ますと、「村には雹が降って、この秋には五穀が実らず、村人の生活も儘ならないので、一切の旅芸人は無用である」と書かれていました。そこで放下は、峠にある石の大地蔵を相手に、来る年の豊作を祈りつつ、独り放下の芸を披露し、自らをも慰めます。その芸が楽しくユーモラスであるだけに、何ともや るせない気持ちにさせます。
 この作品は、花柳寿恵幸帥が、第三回倭の会で舞踊化され、文化庁の芸術祭賞に輝かれました。また、初演以来演奏をして下さっています宮田哲男師も、この曲を気に入って下さリ、CD化をお勧め下さいましたこともあリ、今回の上演となリました。