リ サ イ タ ル

 

音声

[ 約2分 ]


 この作品は今回の第五回リサイタル「中島勝祐作品展」のために作曲したものです。詞章は近松門左衛門(1653~1724)が人形浄瑠璃のために作った世話物の悲劇『大経師昔暦』の中之巻と下之巻のそれぞれの切場から、私のイメージに合つた部分を抽出して構成Lました。
 原作は、京都烏丸四条下ルの表具屋、大経師以春の女房おさんが、運命のいたづらから誤って手代茂兵衛と通じ、処刑された事件を脚色したもので、ちょうどその三十三回忌を当て込んぞ正徳五年(1715)に大坂竹本座で初演されました。粗筋は次の通りです。
 時は、新暦が出来て店がてんてこ舞の十一月。以春の妻おさんから、実家に用立でる金を頼まれた手代の茂兵衛は、主人の舅のためならと主人の判を無断で白紙に押した所を同僚に見つかります。おさんは、茂兵衛を庇ってくれた下女お玉に、衣も更けてから礼に行きますが、お玉から、夫以春が毎夜忍んで来ると打明けられて、その夜はお玉と寝床を交替します。そこヘ茂兵衛も、平素好意を持っていたお玉ヘ礼を言いに忍んで来ます。お玉の寝床にいたおさんは、てっきり夫と思って肌を許すのですが、明け方近く戻ってきた以春を見て、相手が茂兵衞だったことを知リます。ニ人はその場で逃げ出し、おさんの実家に寄った後、奥丹波に逃げて借家住まいをしますが、正月の万歳に顔を覚えられていたことから追われ、捕まってしまいます。群衆に晒られて裸馬で京都に引き立てられて、ついに二人は処刑されてしまいました。
 ニ人に降リかかる義理と人情。近松の世界は、複雑な人間模様を非情にも悲しく物語っていますが、私の作品では、已むにやまれぬニ人の恋情の哀れさに焦点を当て、抑揚と余韻の美しい上方言葉を大切に生かしながら、上方浄瑠璃として描いています。また、今回は、哀れを誘う弓奏弦楽器の胡弓を取り入れることによって、一段と情味溢れる作品に仕上げてみました。